個性派歌手、ザーズパリの街に創作意欲をかきたてられ、ずっと書き続けられて来たシャンソン、それは、いかなる時代にあっても、その時代にあった歌い方を受け入れ、再調整をはかってきた。 歌手ザーズは、ジャズ風のフィーリングをもった声とストレートな性格とが相まって、ここにシャンソンの新たな復活をもたらした。彼女の三枚目のCD「PARIS~私のパリ」が発売されたのを機会に、彼女の音楽歴、制作意図、歌の選曲について伺ってみようと思う。フラン・パルレ:貴女は歌のレッスンをとても小さい時、確か5歳ころから始められましたね?ザーズ:レッスンではなく、5歳で音楽学校に入学したんです。両親が、音楽教育を受けることは大切と考えたからで、兄、姉、私と3人で通っていました。そんなわけで、小さい時から音楽学校に行っていたんです。そこでは、ソルフェージュとか色んなことをやらされて.....実際のところ、それは恐ろしく退屈でした。でも、そこで基礎が養われたことは確かで、それは大いに認めるところです。また、ヴァイオリンを習ったことが、私の聴力を高度に鍛えることに役立ちました。6歳のころには、もうヴァイオリンを弾きたくて弾きたくてうずうずしていました。或る時テレビでヴァイオリンを見てから、言い続けていたんです。「わたしヴァイオリンを習いたいんだ」と。それで7歳で始め、9歳まで続けました。その後に、両親が離婚する事態になりました。だから、ヴァイオリンを断念したんです。それから、正に21歳の時でしたね。あるところに入学して、奨学金を申し込みました。私その頃、青少年のためのコミュニティー・センター(mission locale)で働いていて、そこの教官の一人が、或る時私に言ったのです、「止めてくれないか! そんな風にいつも廊下で歌ばっかり歌って、耳にたこが出来ちまうよ。奨学金でも貰って、歌手修行でもしたらどうかね」と。それで、ボルドーCIAM音楽学校で修行するために、当時、26000ユーロを手に入れたんです。そこで、私は沢山の音楽家に遭遇しました。様々な音楽、アフロ・キューバ音楽、ゴスペル・アンサンブル、ヴォーカル・アンサンブル、ファンク等々で、一般公演したり、室内での勉強会をしたりしました。そこでは、あらゆるジャンルの音楽を学び、体験もしました。卒業近くになって、一本の電話がかかってきて、あるオーケストラに入るためのオーディションを受けないかと聞いてきたのです。そのオーディションを受け、パスして、バイヨーヌあたりの17人のオーケストラに入りました。幾人かの歌手とダンサー達がいました。そこで、世界のありとあらゆるレパートリーを何度も歌いました。行き先々の村々で大いに受けましたよ。私の仕事はそんな風に始まったのです。フラン・パルレ:ここまで来るのに、大変な道のりだったのですね。貴女はご自分が幸運な星のもとに生まれてきたと思いますか?ザーズ:私はチャンスに挑んできたんだと思います。人生には色々なチャンスがあると思うけど、それを上手くつかむ人もあれば、見逃す人もいる。私はどんな時でも躊躇せず捉えたんだと思います。すーごく怖い思いをしてもね。恐さと立ち向かうたびに、チャンスの中に身を置き、前進を続けたということなんでしょう。フラン・パルレ:貴女はフランスの貿易収支の立て直しに大いに貢献しましたね。ザーズ:(笑い)私は税金をちゃんと払っていますからね。フラン・パルレ:それだけではなく、フランスのアーチストの中では、外国でCDが一番売れているでしょう?ザーズ:いいえ、フランス人のアーチストの中では、ダヴィッド・ゲッタがいます。でも、フランス語のシャンソンでは、即ちフランス語で歌うアーチストの中では、一番かもしれません。フラン・パルレ:貴女が外国人の観衆をまえにして、外国での公演をする時、フランス国内でする時と同じでしょうか?ザーズ:違います。もっとやり易いです。感動とエネルギーの中に、直接入っていくことが出来るからです。それは、正直にわかりますよ。人は、言葉の意味を取り違えて解釈したりしますからね。その上、私はいつもしゃべりたいことを沢山翻訳して用意しています。私は、皆にしゃべることが出来るように、実際それを発音記号で紙に書いています。その結果、いつも一語一語切ってはっきり発音するので、皆ゲラゲラ笑いますよ。フラン・パルレ:貴女の今回のアルバム「Zaz,PARIS」は、ファーストアルバム「Zaz」と対照的ですね。「Zaz」は全く貴女のオリジナルアルバムでした。「Zaz,PARIS」では、よく知られた歌をとりあげていらっしゃいます。ザーズ:今回のアルバムは、古のシャンソンからのカバーです。でも同時に、アレンジ面にオリジナリティーがあるアルバムと考えられています。アレンジに独創性をこめ、我々の足跡をとどめようと努力しました。私はそれらの歌を、そっくり真似て、再度とりあげようとする気は毛頭ありませんでしたから。それで、我々のスタイルを出そうとすーごく努力しました。本当に。制作意図は、パリに感謝を捧げるためと、しばしば私にカバーアルバムを作って欲しいといっていたファンに応えるためでした。フランスの古い歌を私にリクエストするファンが多いんです。彼らは私がフランスの古い歌を唄うのを聞きたがります。一方、私はどうかというと、すーごくジャズ調で歌いたかった。そこで、一石二鳥ということになったんです。私達と私のファンの両者を喜ばすことになったんです。私はクインシー・ジョーンズにこの話をもちかけ、彼は直ちにOKをしてくれたので、このアルバムは、私たちにとって、やったーという感じです。大きな綿菓子をもらった感じがします。フラン・パルレ:選曲するのは難しかったのでは?ザーズ:パリに関するシャンソンは沢山あります。そこで、私は歌詞で、心に語りかけてくる歌詞で選曲しました。そこにはなにか響きあうものが感じられましたね。マリー=ポール・ベルが歌ったあの「パリジェンヌ」の歌詞のように、現代に完全に通じるものがありました。それは、今日、私達が一種の単一思考のなかで生きているこの社会にたいする正真正銘の風刺ですね。全てがきちんと決まった場所に収められなければならない、一種の単一文化に対しての風刺です。考え方までもが.....ほら、いつでも同じようなパターンで物事を考えるってこと。今日起こったこと(シャルリ・エブド事件)も然りです。「パリジェンヌ」は完全に現代性があると思いましたね。占領下のパリの歌詞も、全く現代に通じるものです。もちろん私は、今、私達が一種の戦いの状況にあるなんていう積りはありません。でもちょっとそんな雰囲気はあるかなと。ともかく何が起こっても、私達から自由を奪われてはいけない、わが身を守り、なにも諦めてはならない、頭をしっかり上げ、1人でしっかり立ち、グループを作り、連盟へと広げなくては。そうすることが、結局一番大切なことじゃないかしら?フラン・パルレ:貴女はマリー=ポール・ベルの歌詞の後に、貴女ご自身の詩を寄り添うように置きましたね。彼女にちょっと似て、貴女も地方からパリに出てきたという事実と何か関係しているのでしょうか?ザーズ:私もパリに出てきました。でも、私の場合は、表現のためで.....人はある鋳型からはみ出すと、とやかく言われてしまいます。だから、とやかく言われたくなければ、その鋳型にまた戻ればいいじゃんということですよね。私の場合はそうじゃない。私は、マリー=ポール・ベルのあの詩の語り口が好きなんです。彼女は自分を揶揄します。彼女は言います、私はその鋳型の中からやって来た、私はその鋳型に戻るんだと。しかし同時に彼女は自分を揶揄しているのです。それから、彼女は、自分がレズであることを自ら表明した最初の女性の一人でもあります。結局は、世間を騒がしてはいけないと同時に、時には騒がせることも必要なのね。あの表現の自由ということ、声を高くして強く「私はこう思う」という権利、たとえ人には迷惑なこととしても、私は声を大にして叫び、鋳型みたいなものには戻りません。私だったら、そうですね.....何はさておき、歌いますね。「私の欲しいもの、愛、喜び、ご機嫌」と歌いますね。私、この歌「私の欲しいもの」に関しては、少々矛盾したところがあるんですよ。こんなご面相で、TF1に出演しているんですから。それに私、消費社会に住んでいながら、この消費社会ってものを嘆いてもいるんです。私は、Colibris(ハチドリ)協会という団体に属しています。 そこでは、全会員がこの協会に何らかの寄付をしています。教育、農業、環境分野に対し、なんらかの提言、代案などを行っている団体です。同時に、それは、毎朝仕事に行くのに車を運転して行かなければならないエコロジストに似ています。私自身、これと同じ状況にいます。まるで筋が通らないではないかと言われそうですが、世の中実際、矛盾だらけで成り立っています。しなければならない仕事を同時にやらねばならず、組織から自分を外すわけにはいきません。私もまた組織の一部なのですから。もし私が物事を変えたかったら、その内側から変えようとしますね。だから、一種の矛盾があるんですが、バランスをとって、私は何とか生きているんです。フラン・パルレ:私は皆を代表して貴女に感謝いたします。フランスのCDには珍しく、シャンソンの言葉をジャケットに付記して下さったからです。全部の歌詞が入っていました。ここで貴女のアドバイスを頂きたいのですが。シャンソンのお蔭でフランス語を始めようとする人、またその反対に、フランス語を始めたので、シャンソンを歌ってみたい外国人が沢山います。古のパリのシャンソン、或は貴女ご自身のシャンソンを歌うにために、なにかアドバイスを頂けませんか?ザーズ:第一に、自分が楽しむことだと思います。根本は、自分が楽しむこと、そして、そこに喜びを見出すことですね。格好良くしようとして硬くなる一種の心理的硬直に陥ってはいけません。とりわけ、歌うということは、自分の身体と声を使って、喜びを感じとることだと思います。シャンソン歌手たちの歌う気持ちを想像してみても.....そうですね、一番大切なことは、上手に歌うことではなく、よく歌おうと固くならずに、その歌をうたうことで、詩の何かを伝え、語ることだと思います。2015年1月インタヴュー:エリック・プリュウ翻訳:井上八汐
Zaz(ザーズ)のサードアルバム『PARIS 〜私のパリ』発売!世界で最もアルバムが売れているフランス人ミュージシャンとして、注目を集めている彼女の最新アルバムは、彼女自身のルーツに立ち戻ったシャンソンのカヴァー・アルバム。シャンソンの名曲を、多彩なアレンジによって、大胆に、個性豊かにカヴァーした一枚。通常盤:CD WPCR-16205 2400円(本体)+税初回限定盤:CD+DVD WPZR-30606/7 3300円(本体)+税
フラン・パルレ読者限定(※)で、Zaz(ザーズ)のアルバム『PARIS』(輸入版)をサイン入りで抽選で2名様にプレゼントいたします。
件名に下記の質問の答えをフランス語で書き、メッセージ欄にはお名前を明記のうえ2015年2月14日までにメールにてお申し込み下さい。
質問「Dans quelle ville, Zaz a-t-elle appris le chant (un mot de 8 lettres)?」
当選者にはメールで通知いたします。賞品の受け渡しは、フラン・パルレ編集部でおこないます。
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