『ショータイム!』この映画のモデルとなった青年・ダヴィッド・コーメットはそのとき32歳。祖父の代から守ってきた農場の経営が立ち行かなくなり、途方に暮れていた。しかし彼は、「農場でキャバレーを開く」というとんでもない構想を抱き、実現し、経営難を見事に救ったのだ。「農場にキャバレー……この組み合わせは、フィクションをつくる者であってもそんなに簡単に思いつくものではありません。普段は謙虚で控えめに見える、農業に従事する人たちがこの奇抜なアイデアを思いつき、そして成し遂げたのです」。ジャン=ピエール・アメリス監督はそう振り返る。フランスの農業が置かれている状況、従事する若者たちの苦難、ときに自殺にまで追い込まれる人がいるという事実。アメリス監督は、そのことを多くの人に伝えるべくこの映画を完成させた。きらびやかなショーの世界と農家の日常。相反する景色と相反する人々が少しずつ距離を縮め、美しいハーモニーとなって流れていく。仔牛が生まれるシーンが、まるでショータイムのように輝きを放つ瞬間は感無量だ。地味な制服で働く短髪の店員が華麗なドラァグクイーンとしてダリダのナンバーを歌い始めたり、耳が聞こえないけれどそんなハンディキャップを感じさせないマジシャンが登場したり……個性豊かな彼らはすべて架空の登場人物。アメリス監督は、実話という太い軸に、多様性あふれるフィクションを添える。それはまるで、どっしりとしたクリスマスツリーに飾るオーナメントのようにキラキラとして愛おしい。ダヴィッド(アルバン・イワノフ)に大きな影響を与えるダンサー・ボニーを演じるのは、サブリナ・ウアザニ。脚本は、彼女を念頭に置いての当て書きだ。低くてハスキーな声も、しなやかなポールダンスも、がさつなようでいて実は繊細な心も、すべてはサブリナ・ウアザニだけが放つことのできる魅力だ。フランスでこの映画が公開されると、ダヴィッドと同じように農場にキャバレーを開く人たちが出現したそうだ。映画は、人の心に希望を与える。そして、生きる術を与えてくれることをあらためて知る。 (Mika Tanaka)監督:ジャン=ピエール・アメリス出演:アルバン・イワノフ、サブリナ・ウアザニ、ベランジェール・クリエフ、ギイ・マルシャン、ミシェル・ベルニエ2022年/109分/フランスLes folies fermières de Jean-Pierre Améris avec Alban Ivanov, Sabrina Ouazani, Michèle Bernier, Bérengère Krief; 2022, France, 109 min
『ショータイム!』 Les folies fermières