Crédits : © 2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - FRANCE 3 CINÉMA - WILD BUNCH - SRAB FILM 『あのこと』1960年代のフランス。文学を専攻する大学生のアンヌ(アナマリア・ ヴァルトロメイ)は教授か らの評価も高く、学位を取得して教師になる道をまっすぐに進んでいた。そんなとき、予期せぬ妊娠を知ることに。産むことを選択すれば 学業を中断せざるを得ない。裕福とはいえない家庭に育ったアンヌにとって、学業の中断は輝かしい未来を失うことにも等しい。そもそ も、当時のフランスに「産まない」という選択肢はなかった。中絶は違法行為であり、中絶した本人や医師だけでなく、協力した者たちす べてが罰せられるのだ。「中絶」は本来使われるはずもない言葉、だからこの映画のタイトルは「あのこと」なのだ。原作は、2022年ノーベル文学賞を受賞したアニー・エルノーの自伝小説。オードレイ・ ディヴァン監督は、エルノー氏と長い時間を共に過ごすことで、作品への理解を深めようと試みた。中絶を行う瞬間の話を始めたとき「目 に涙を浮かべていた」エルノー氏。60年近い歳月が流れても癒える ことのない心の痛みをしっかりと受け止めながらディヴァン監督は脚本の執筆にかかった。カメラは主人公の目線で動き、いつしか私たち はアンヌの苦しみや孤独を共有していく。妊娠してからどれぐらいが経過したかテロップで妊娠週が示されるが、それはまるで時限爆弾の よう。(※妊娠週の数え方はフランスと日本では異なり、フランスの週数プラス4週が日本の週数の目安)。とはいえ、妊娠週を見てその緊迫感が伝わるのは、観客の何%だろうか。いやむしろ、妊娠週と言われてもピンとこない人たちにこそ、 この映画を観てほしい。ただ自由に生きたいだけなの に、なぜ女性たちは命懸けの闘いを強いられてきたのだろう。21世紀の今、女性たちはこの頃より自由になっているだろうか。アンヌの 母親を演じるのは「冬の旅」(監督:アニエス・ヴァルダ)のサンドリーヌ・ボネール。この映画もまた、女性であることの孤独や辛さを 淡々と描いていたことを思い出す。(Mika Tanaka)原作:アニー・エルノー監督:オードレイ・ディヴァン出演:アナマリア・ ヴァルトロメイ、ケイシー・モッテ・クライン、ルアナ・バイラミ、サンドリーヌ・ボネー ル配給:ギャガ 2021/フランス/ 100分L’événement d’Audrey Diwan d’après le roman d’Annie Ernaux avec Anamaria Vartolomei, Kacey Mottet-Klein, Luana Bajrami, Sandrinne Bonnaire; 2021, France, 100 min

『あのこと』 L’événement
