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『ジュリアン』 Jusqu’à la garde
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Crédits : ©2016 - KG Productions - France 3 Cinéma

『ジュリアン』
「あなたは病気よ」。DVが 原因で別れた夫にそう言い切る妻・ミリアム(レア・ドリュッケール)。夫・アントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)はその言葉を素直に受け止めることができず 「病気はお前の方だ!」と言い返す。ああ、と思った。アントワーヌがもう少しだけ家族の言葉に耳を傾け、自分を見つめることができる性格だったら、彼は暴 力を振るうこともなかったし、妻を失うこともなかったのではないだろうかと。夫婦の関係は破綻した。しかし、親子の関係は続く。どんなに暴力的でも、アン トワーヌはジュリアン(トーマス・ジオリア)とジョセフィーヌ(マティルド・オネヴ)の父親であり続ける。妻を失ったアントワーヌにとって、11歳 のジュリアンとの面会だけが自分の支えだ。一方、ジュリアンにとって父との面会は、耐えなければならない試練の時間。やがて、孤独に耐えられなくなったア ントワーヌは、暴力を武器に自分の心の隙間を埋める行動に出る……「私が描きたかったのはモンスターではなく、生身の人間です」と、グザヴィエ・ルグラン 監督は語る。アントワーヌは、生まれつき乱暴な性格だったわけではない。彼が育っていく中で、彼自身が生きていく術として、彼自身の判断で「暴力」を選択 したのだと。暴力は弱さと隣り合わせだ。アントワーヌはきっと、弱い人間だったのだろう。自分の弱さを直視できないがために、暴力にすがったのではないだ ろうか。現役の舞台俳優でもあるルグラン監督は、ギリシャ悲劇を現代に置き換えようと試みた。そしてたどり着いた題材が「家庭内暴力」だったという。
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フランス映画祭2018で来日した、グザヴィエ・ルグラン監督
Crédits : ©Mika Tanaka

フラ ンスでは2日半に1人の割合で女性がDVの 被害に遭っている——ルグラン監督がリサーチを行った時点での統計だ。いちばん安らげるはずの家庭が、命の危険にさらされる場所であるという現実。私たち の悩みや苦しみは、ギリシャ悲劇の時代からずっと続いてきた。でも、この映画は苦しみだけを描いているのだろうか?アントワーヌがジュリアンに向ける一瞬 のまなざし、「生まれ変わったんだ」と妻に復縁を乞う姿に、ほんのわずかな光が見えるような気がするのだ。アントワーヌは妻にも子供にも決して無関心では ない。愛の反対が無関心だとすれば、このひと筋の光に希望を託したい。ジュリアンとジョセフィーヌにとって、アントワーヌは世界中でたったひとりの父親なのだから。 (Mika Tanaka)

 
監督:グザヴィエ・ルグラン
出演:レア・ドリュッケール、ドゥニ・メノーシェ、トーマス・ジオリア、マティルド・オネヴ
2017年/93分
 
Jusqu’à la garde de Xavier Legrand avec Léa Drucker, Denis Ménochet, Thomas Gioria, Mathilde Auneveux; 2017, 93 mn
 
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