“Vingt mille lieues sous les mers、” 日本語タイトル『海底二万里』…… フランスのSF作家、ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)のこの小説に、世界中のどれだけの人が心を踊らせ、夢を描いたことだろうか。大ベストセラーとなったこの小説が出版された時代は、海洋学が大きく発展し、多くの視線が「海」へ向けられた。エミール・ガレ(Émile Gallé)もまた、海に憧憬を抱いた1人だ。クラゲ、ヒトデ、タツノオトシゴ……今まで美術で取り上げられてこなかった海の生物を題材に、ガレはガラス工芸を通して独自の世界を切り開いていく。ガラスの質感は、海の色ともいえる「透明感のある青」を際立たせるのに適していたのだろう。この深い青の杯(写真)も、じっと見ていると海の底に漂っているような心地になる。よく見ると、きらめく青いガラスを漂っているのは海の生物ではなく、2匹の蜻蛉(トンボ)。対になったこの小さな生き物には、悩み迷いながらも前へ前へと進まなければならない人間の業(ごう)が映し出されているかのよう。(Mika TANAKA)