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『アランフエスの麗しき日々』 Les beaux jours d’Aranjuez
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© 2016-Alfama Films Production-Neue Road Movies
『アランフエスの麗しき日々』
 
 こんなに自由に、こんなに軽やかに1作の映画を撮ることができるなんて!しがらみから解き放たれた映画は、すっきりとしていて、繊細で、斬新なのに懐かしい。 ときに財源確保のために、ときに配給会社の気を引くために、映画監督は「自分の思い」以外の要素を映画にのせていかなければならない。でも、この映画は違う。「自分の思いを最後まで貫いて作り上げることができた初めての作品」と、ヴィム・ヴェンダース監督はこの映画を語っている。
  ある夏の日。かつてサラ・ベルナールが住んだことのある、パリ郊外の家が舞台だ。部屋では作家らしき人物が、タイプライターの前で、愛と孤独に思いをめぐらせている。作家の視線の先には小さなテラスがあり、男女が何気ない会話を繰り広げる。静寂の中で木々がざわめき、庭師は黙々と自分の仕事をしている。この男女は、作家が創造した登場人物らしい。3Dカメラが、現実と創造のはざまを撮り続けていく。たった10日間という短い撮影期間で、いったいいくつの魔法が生まれたのだろうか。男女は意気投合するわけでもなく、言い争うこともなく、淡々と会話を続ける。それだけのことなのに、なぜこんなにも濃密な空間が生まれるんだろう。なんという信頼関係なんだろう。2人が共有しているのは、2人が発する言葉ではなくて、夏の匂いだったり、通り過ぎる飛行機や木々の葉擦れの音だったり、まるで止まっているかのようにぽっかりと浮かぶ時間の感覚なのかもしれない。部屋に置かれたジュークボックスから、ときおりBGMが流れる。冒頭の曲はルー・リードの『パーフェクト・デイ』だ。英語の歌とフランス語の会話とのコントラストが心地よい。映画がすすむにつれ、ジュークボックスの存在は大きくなり、ニック・ケイヴの『Into My Arms』が聞こえる頃、ヴェンダース監督は映画に素敵な魔法をかけてくれる。映画の最後を飾るセザンヌの絵画にヴェンダースが重ねた思いを、いつか聞いてみたいと思った。(Mika Tanaka)
 
監督:ヴィム・ヴェンダース
出演:レダ・カテブ、ソフィー・セミン、イェンス・ハルツ、ニック・ケイヴ
2016年/フランス・ドイツ・ポルトガル/97分
 
Les beaux jours d’Aranjuez de Wim Wenders avec Reda Kateb, Sophie Semin, Jens Harzer, Nick Cave, France, Allemagne, Portugal, 97 mn