『ルージュの手紙』助産師として、1人息子の母として、堅実な人生を歩むクレール(カトリーヌ・フロ)。酒とギャンブルが好きで奔放に生きるベアトリス(カトリーヌ・ドヌーヴ)。正反対の2人が、30年ぶりに再会する。かつて自分の父を愛したベアトリスは、あるとき、こつ然と自分たちの前から姿を消した。新しい母親ができた喜びから、とたんにどん底に突き落とされたクレールは、赦しを乞うベアトリスを受け入れることができるだろうか……21世紀のパリ郊外を舞台に2人の大女優(どちらもカトリーヌ!)が演じるこの映画は、まるで「アリとキリギリス」のよう。カトリーヌ・フロの演技が映画にリアルな厚みを加え、カトリーヌ・ドヌーヴの存在感がきらきらとした彩りを加えている。人の命の誕生に関わるという大仕事でありながら、脚光を浴びる機会のきわめて少ないSage femme=助産師。マルタン・プロヴォ監督にとって、助産師は文字通り、命を与えてくれた人だった。彼が命の危険を伴って生まれたとき、担当の助産師は自らの血を輸血して新生児の命を救ったという。大人になってそのことを知り、助産師を探しに行ったが、命の恩人との再会は叶わず、プロヴォ監督は、助産師への感謝の思いをこの映画に込めた。多くの助産師を取材して完成した脚本には、思わず涙がこぼれそうになる出産シーンがある。そして、それと対比するように描かれる賭博のシーンもまた、臨場感に溢れる。本物の助産師、本物の賭博師に囲まれながら役を演じ切った2人の女優と、それを映画におさめた監督の情熱。観ているうちにきっと胸が熱くなってくると思う。(Mika Tanaka)監督:マルタン・プロヴォ出演:カトリーヌ・ドヌーヴ、カトリーヌ・フロ、オリヴィエ・グルメ2017年/117分Sage femme de Martin Provost avec Catherine Deneuve, Catherine Frot, Olivier Gourmet, Mylène Demongeot; 2017, 117 mn
『ルージュの手紙』Sage femme